1999年12月号
発行こぶし編集部
第137号
『電脳世界での
不思議な人間関係』
藤田毅

■師走ですねえ
今年ももう早12月。師走ですね。雪もちらほらと降り始めて、皆さんも忙しくなってきている頃でしょうか。今月は9月号の子供の問題に引き続き、電脳世界での不思議な人間関係について書いてみます。

■インターネット・アディクション 最近は本当によくインターネットの名を聞くことが多くなりました。企業が自社の案内をホームページ(HP)で公開するのはもちろん、その企業相手にクレームを公開したり、ついには電子レンジのレシピをインターネット経由でダウンロードする製品までありますよね。コンピュータもプログラム言語しかのせていない時代から、ワープロや表計算ソフトをバンドルするようにもなりましたが、最近はHP閲覧とメイルさえできればいいという顧客が増えているといいます。いやはやインターネットは本当にメジャーになったものです。 ところでインターネットアディクション(依存)という状態をご存知でしょうか。インターネット上での交流やメイルの交換などで築かれる世界に没頭してしまい、現実世界での適応を損なってしまう状況のことです。インターネットは匿名の世界ですから、そこでは普段の自分と違う自分でいられたりします。例えば、普段は小心なのに思いのほか大胆にできたりする、そういった一味違った世界を味わえるのが一つの魅力なのでしょう。 ここに実は大きな罠が潜んでいるのです。

■仮想現実ではもうひとりの自分
コミュニケーションをうまくとれない子供が増えているとよく言われるようになりました。自分に自信が持てず、自分を表現できないというわけです。自信がないので、他人の言葉には非常に敏感で傷つきやすい。その反面、自分を表現することができないので、思わぬ誤解をされたり、他人を傷つけることに神経質になったり、逆に全く気付かなかったりするのです。そうすると現実の世界はだんだんと生き難くなります。その生き難さを感じると助けを求める子供は多いのですが、多くは見過ごされてしまう。その結果、違う自分を演じることのできる仮想現実の世界に身を委ねることになるのです。もちろんそれが全てではありませんが、そういうケースも珍しくない。 最初は現実の自分と仮想世界の自分とのギャップに戸惑いを感じることもありますが、そこは柔軟性のある子供たち。あっという間に慣れてしまいます。その結果、現実の世界ではあれ程、適応不全をおこしていたのにも関わらず、結局は現実の世界を捨ててしまうことで仮想世界での適応を見事に果たすのです。違う自分を演じながら・・・。

■同一性障害 人は成長過程で自分というものを意識できるようになり、自己が作られていきます。しかし、それがうまくいかないと色々な問題を抱えてしまうのです。たとえば、自分が何者であるのかわからなくなったり、他人との精神的距離にとまどったり、自分の居場所がどこにもないと感じてしまいます。そのため引きこもりになってしまったり、誰かに異常に依存してしまったりするのです。 それでも何とか「社会」や「現実」に適応しようとすると、ちょうど良い関わり方が保てずに、極端な反応を示してしまいます。ある人はとても良い人を演じることで適応しようとしますし、またある人は暴力的となり反社会的な世界に没頭しようとします。しかしそのいずれも極端な適応の仕方であることに変わりはなく、やがて苦しくなり、どうしていいかわからなくなります。もしそんな時に色々な自分になれる空想の世界にも似た仮想現実が目の前にあったとしたら、そこに入り込んでしまうのも無理はないかもしれません。そして自分というものの探索が始まり、自分の存在をさまざまな形で確かめようとするでしょう。 生きている証拠が欲しい、自分のことを必要だと誰か言って欲しい、そんな思いがインターネットアディクションの人たちにはあると思います。私の診察ではリストカット症候群(リストは手首、カットは切ることですね)の人が結構おられますが、彼らもまた、こういう叫びを持っています。それはとても大きな不安と恐怖の世界なのです。おわかりいただけるでしょうか。

■家族の問題 家族や親の問題はこれまでも少し書いてきました。決して親だけが悪いのではありません。親もしっかりやっている。でもどこかでずれてしまうことがあるのでしょう。いつの間にか「いまどきの子はよくわからない」となってしまいがちです。 あるコラムで「怒る」と「叱る」について書かれていました。それによると怒るのは、単に感情の垂れ流しにすぎず、教育的な意味合いは微塵もない。それに対して叱るのは、その背景に愛情があるというのです。愛情があるから教育にもなるし、しつけることができるというわけです。なるほど確かにそうかもしれません。家族がシステムとして機能しておらず、個々人が同居しているというだけで、その関係性は何もないというケースがあります。お互いがお互いの行動に反応はするものの、その結果は「事をおこさないで、平穏でいてほしい。厄介ごとを持ち込まないで」というようなことにしかならない。大変ねとか、かわいそうとは言うものの、解決しようとはしない、そんな無関心さが蔓延している場合が結構あるのです。

■年末にむけて 私たちが安住できるところは現実の世界の中にあるのです。決して仮想空間だけではない。人は人との関係性で悩みますが、同時に癒されもするのです。そういう安心感を一人でも多くの人に味わってもらいたいと願っています。 来年度もこぶしはそのために何ができるか、いろいろと模索していきたいと思いますのでよろしくお願いいたします。(^_^)

・~~~読者の広場~~~
《食のシリーズ9》
『最後の一匙』
ネコ吉
本当ならば、「アルコールについて考える」の続きを書くところなのですが、ちょっと私事を書きます。祖父が亡くなりました。84歳。膵臓の癌が肺に転移してました。膵臓はアルコールとの関係も深い臓器です。祖父が若く元気なころ、かなり飲んでいたと聞きます。やっぱり影響がでたでしょうか? 今まで入退院を繰り返し、今回は今年の7月に入院。もう退院は不可能と言われてました。しかし、なんとか退院しようとしていました。点滴をしなければならなくとも、排泄が一人では無理だったり、食事は補助がなかったら難しくても、「家に帰りたい。」と言い続けました。最後は朦朧とした意識の中で「タクシーに乗って帰っているから。」とベットの上でつぶやいていました。 私が病院で食事を作っていたころ、いつも思っていることがありました。「これが患者さんにとって最後の食事になるかもしれないんだ。」でも、最後の食事にしては寂しいものばかりでした。これでいいのだろうか?といつも疑問を抱いてました。 そして、祖父の容態が思わしくなく、食事がとれなくなっていきました。最後の一匙は良いものを食べさせてあげたいと言う気持ちが強くありました。まず、固形のものはかめなくなっていましたし、水分を含んでいないと飲み込む事が困難です。トロンとしたものではないとむせてしまいます。ゼリーやくず粉を買っていきました。「ゼリーも半分しか食べない。」と言う母に私は「一口でも食べられたら食べたと言うんだよ。」と言い続けました。そして何をもって行っても食べないと言う感じになって、もう食べられないのかとぼんやりと祖父を見ていました。そうすると、「氷は売っていないのかい。」と聞こえてきました。何日か前の暑かった日に食べた、小豆と練乳が入った「しらゆき」と言う商品名の氷菓の事だと分かって、あわてて買いに行きました。その日は寒い日だったので、それが食べたいとは思ってもみませんでした。一匙、二匙。そのくらいしか食べられませんでしたが「食べたいものが食べれて思い残すことはない。」と涙が流れました。それが私が祖父が何かを口にした最後の姿でした。 本当にそれが最後の一匙かは分かりません。祖父が危篤と知らされて病院へ自動車を走らせている時にふと宮沢賢治の詩一説が思い出されました。 (あめゆじゅとてちてけんじゃ)《あのみぞれを取ってきてちょうだい》 賢治の妹、とし子が死んだ時の事を思って書いた詩です。「永訣の朝」にくりかえしこの方言の強い一説が登場します。口のなかですうっと溶けて、引っかかることなく喉を冷やして流れていったでしょう。誰もが食べたがるとは思いませんが、そんな物が食べたくなるのかなあ。と考えてしまいました。 私が病院に着いてから2時間後に祖父は息を引き取りました。そして、やっと家に帰る事ができたのです。苦しさからやっと解放されて。 食べることはすなわち生きる事です。私たちは生きるために食べなくてはなりません。物が食べられるって、素晴らしい事だなあって思います。そして、私は今後も「最後の一匙」を考えて行くでしょう。私の最後の一匙は何になるでしょうか?

●お知らせ
①岩見沢こぶしの留守番電話番号変更について
従来、岩見沢こぶしの留守番電話は大月院長、三田村先生に御用の方は共に0126-25-5568番でしたが、この度、各先生別々の番号を設けました。それぞれの番号は下記の通り。

●大月院長に伝言したい方
Tel-0126-25-5568

●三田村先生に伝言したい方
Tel-0126-25-7468
尚、必ず『名前、電話番号、用件』は必ず入れて下さい。入っていない場合は折返しの電話が出来ません。緊急以外の留守電は午後11時迄にお願いします。
②来年より岩見沢こぶしの診療時間変更、三田村先生の診療日変更があります。

◆岩見沢こぶしの診療時間変更
西暦2000年1月より岩見沢こぶしの診療時間が次のページの様に変更します。
お間違いの無いようお願い致します。(土、日曜日、祝日は従来通り休診です。)

◆三田村先生の診療日
西暦2000年1月より三田村先生の診療日が下記の様に変更します。
①こぶし神経クリニック(岩見沢)月・水
②札幌こぶしクリニック(新札幌)----------火・金
③傘を始めとした忘れ物がたまってきました。
傘を始めとした忘れ物がたまってきました。それら全てを平成12年2月末日までの3ヶ月間、待合室内においておきます。ご自分のものであると確認できたものはお持ち帰りください。平成12年3月の時点で残っているものに関しては、真に勝手ながら当院で処分させていただきます。ご了承の程よろしくお願いいたします。
【札幌こぶしクリニック】