こぶし

2011年 01月 『怒りのコントロール』 亀川太志 (こぶしだより 第267号)

もう今年も残るところひと月となりました。
例年よりも暖かい日が多くなんだか不思議な感じですが、空気は乾燥しインフルエンザなど感冒の流行る時節ですので、体調管理に気をつけたいところです。
さて、今回も10月号の続きで「怒り」の感情について話題提供したいと思います。
前回は自他に向けられる怒りの感情の何が問題なのかを考えてみました。
今回はもうすこし具体的に怒りの感情をどう扱ったらよいのか探ってみようと思います。
 ここ数年、怒りを基とした暴力行為の問題が犯罪防止の面から重要視されるようになり、わが国でも司法関連施設などで「怒り・衝動性のコントロール」を焦点とした訓練プログラムが導入されつつあります。
これらは既に欧米で展開している「アンガー(怒り)コントロールトレーニング」(以下ACT)が基になっているようですが、欧米ではこうしたプログラムは触法者に限らず、怒りに関連した衝動性に苦しむ一般人を対象に、医療機関や相談機関で行われ、効果を上げているとのことです。
プログラムは基本的にいわゆる認知行動療法に基づいており、何か特殊な方法というわけではありません。
今後日本でもACTのようなパッケージ化されたプログラムを実施する機関も増えてくるでしょう。
しかしながら、自主努力できれば越したことはないので、まずは手元にある参考資料から、ACTのエッセンスである10原則を抜き出し、参考にしてみることにしましょう。

①攻撃行動は学習によって身につけられた行動であり、変えることができる 怒って攻撃的な行動に走ってしまうのは、これまでの生活体験より身に付けた悪いクセであり、感情の扱い方を学びなおすことでなんとかしのげるものである、とまずしっかり理解しようということです。
実は怒りっぽかったり攻撃的な考え方をしがちなのには、何らかの原因で常態化した脳の機能状態であるとか、ある種の精神疾患の影響も想定されます。
しかし実際に攻撃的な「行動」に出てしまうのは、そうした行動パターンを学習しているところの影響が大きいので、まずその学習の成果を見直し、もっとましな方法を学びましょうということになります。

②自分の信念が、周囲の人々や状況を理解する方法に影響する ③自分の抱いた感情が考え方や行動に影響する ④自分自身の考えを意識しより正確に理解することが、自分の行動に影響する ②~④は認知行動療法的な基本的仮説です。
人間の身体・生理と感情や思考、それに行動はお互いになんらかの影響を与えるかたちで関係していると考えています。
たとえば、自分がもともと抱いている周囲の世界に対するものの見方(信念)は、そのつどある種の考え方や感情の湧き上がり方に影響します。
また湧き上がった感情は自分の行動パターンのある部分とつながり、セットになっていることが多いでしょう(イライラしたら煙草を吸う、寂しくなったら携帯電話をいじる、みたいに)。
そして行動を起こした結果によってまた、考えや感情は変化していきます。
自分の抱いている信念が自分の感情や行動にどんなふうに影響を与えているのかを知ることは、行動や感情の湧き上がり方を変えていく際に役に立ちます。
また行動を起こす際に少し冷静に自分の考えを振り返ってみることで、はたしてその考えが行動を起こす理由として妥当なものなのか、逆に、その考えにその行動は適当なものなのか考えるようにします。
たとえば怒ったから「殴る」ではなく、主導権を握るために冷静に不満な点を列挙する、という戦略もあることが発見できるかも知れません。

⑤怒りには生理的な部分がある 前回も少し書きましたが、怒りの感情によって自律神経(交感神経)が刺激されアドレナリンの分泌が進み、いわゆる興奮が生じます。
血圧や心拍数、呼吸数が上がったり、筋緊張が高まるなどの生理的反応が生じ、場合によっては吐き気や頭痛などの症状も生じます。
怒りぽい人がそうでない人に比べて健康状態にリスクを抱えるのか否かについて詳しくありませんが、少なくとも、高血圧症や心疾患をお持ちの方には不健康な刺激となることは考えられます。
怒りを感じやすい状態が続くと、長期的には健康にリスクがあると考えることが、感情コントロールのための動機づけにもなります。
また興奮状態が続くと怒りの感情を抑えるのが難しくなります。
逆に感情や考えを変えようという前に、まず興奮している身体をリラックスさせるほうが、実際に怒りのコントロールを図る場合に有効でしょう。
 そこで怒りによって自分の身体にどんな反応や症状を生じるのか意識しておき、そうした状態を落ち着かせるリラックス法をいくつか身につけておくのがよいということになります。
これは例えば深呼吸やストレッチなど軽い体操でもいいのですし、人のいないところで大声を出すなども考えられるでしょう。

⑥攻撃行動は、たいてい自分や他者に悪い結果をもたらす 一見、怒りにまかせて行動(攻撃)したほうが、何らかのメリットがある場合も考えられますが、長期的に見たら特に人間関係ではうまくいかなくなることが多いと考え、基本的には⑥のように考えておきましょうということです。

 ⑦攻撃的にさせる可能性のある要素を明らかにできれば、攻撃的になるのを事前に予測したり、実際に攻撃的になった際にうまく対処するのに役立つ これは、例えば過去の不快な体験などが、その人の怒りの引き金となっていることがありますが、そうした攻撃的になりやすい自分の引き金(トリガーポイント)を知っておくことで、あらかじめ予防、対策が立てられるのではないかということです。

⑧感情や行動のコントロール喪失は、たいてい放置していた小さな「刺激の種」が積み重なった結果生じている 怒りが爆発するのは、なにか大きな事件が起きた時というよりも、小さなイライラごとが積み重なって爆発することが多いのではないでしょうか。
大きな出来事の場合は、いったい何が起きているのか確認したり、事態を把握するために冷静になることが多いので、意外に怒る暇がなかったりします。
そこで、対策としては日常的な小さなイライラ、不満事をため込まないで、なるべくその都度解消できるようにしようということになります。

⑨普段の生活において、ストレスの多い不快な作業とリラックスできる作業とのバランスが取れていないと、攻撃的な行動をとる可能性が高まる これも⑧同様、普段の生活において考えることなのですが、要は攻撃的にならないで済むには、単に普段のストレスの多い少ないだけでなく、それに対してリラックスできる時間をバランスよく持っているかどうかも関わるということです。
ストレスのかかる事柄が減らないにしても、それに対してリラックスできる時間を増やす方向を考えるのもよいということですね。

 ⑩怒りのエネルギーをもし前向きに建設的に利用することができれば、自己肯定的で自分の力を伸ばすためのエネルギーとなる 怒りはとりあえず人間の正常な感情反応であり、誰でも経験するものです。
怒りのコントロールというのは、怒りの感情そのものをなくすというものではありません。
怒りから起こす行動により、自身の生活が破壊しないようにし、むしろ生活に対して建設的な方向に働くよううまく利用できればよいということです。
それには、基本的には②~④に挙げたような、怒り感情と行動のつながりを考えたうえで、さらに「怒り」の中にある「不満」感を具体的に明らかにする作業が必要です。
何が不満で怒ってしまうのか具体的に分かれば、その不満を感じる部分を問題解決できるよう具体的に工夫することができるでしょう。
さらに怒りにずっととらわれているよりも、早く問題解決できるよう行動を起こしていくことで自己肯定感(自信)が付いてきます。
 またそのように怒りに対して距離をおき、怒るよりも早く問題を解決しようという態度が身についた時点が怒りのコントロールがうまくいっていることになるでしょう。

 以上、ACTプログラムの中心となる10項目を挙げてきましたが、②~④、⑦、⑧のような事柄を考える上では「怒り日記(アンガーダイアリー)」が役に立つ例として挙げられています。
この日記は自分でノートなどに毎日怒りを強く感じた場面を思い出し記録するものですが、状況を少し詳しく記入していくうちに、自分の怒り感情と、それにつながる考えや行動の相互のつながりを分析していくことができます。
また⑥~⑩については、攻撃行動の何が自分のメリット・デメリットなのか考えてもらうために怒りの損益バランスシートというものを作ったりします。
 その他いろいろと工夫が考えられますが、基本は以上の10項目を理解したうえで、それぞれについて考えたことを紙に書く、人に言うなど「頭の外に出す」ということですね。
 個人的には「怒りっぽいのはみっともない、かっこ悪い、エレガントではない・・」、などと自分の美意識や倫理観に訴える方法もよいのではないかと思います。
あれこれ考える余裕がないひとは、新書などで怒りや感情のコントロールについて書かれた書籍がたくさん出ていますので、読みやすいものを探すとよいのではと思います。
ちなみにおすすめはスリランカの仏僧アルボムッレ・スマナサーラさんが書いた「怒らないこと」(サンガ新書)。
仏教の立場から、半ば強引に、いかに「怒る」ことが生き方としてダメか書かれています。
そのまま受け入れるのは抵抗ありますが、説得力はあるので偉い人のお説教として聞くとよいです。