2001年06月号
発行こぶし編集部
第155号
『ストレスの話』藤田 毅

・いつもこの時期になると五月病のことを聞かれることが多くなります。
このこぶし便りでもご紹介したことがあると思いますが、今回はそんな五月病にも関連して、ストレスの話をしたいと思います。
ストレスって何か?と聞かれて正確に答えられる人は、そう多くないかもしれませんね。
精神科医の中にも間違って理解している人がいる可能性もあるのですから。
このストレスという言葉、実は結構便利に使われています。
例えば、あなたが何となく体調がすぐれなくて内科の病院に行ったとします。
そこで色々な検査を受けて、結局何も異常が見つからなかったとしましょう。
その時、担当の先生はこう言うかもしれません。
「検査では異常は見つかりませんでした。
きっと、ストレスでしょうね」と。
そうすると、そう言われた皆さんはどう感じるでしょうか。
「ストレスねえ。
確かにありますから、そういうものでしょうかねえ」と思うのではないでしょうか。
これは、ストレスという言葉の持つあいまいさが便利に使われている例です。
ストレスが全くないと言い切れる人はまずいないでしょうし、ストレスだと言われれば、心当たりがないわけではない分、そんなものかなと思ってしまうのです。
ストレスという言葉は、1930年代にカナダのハンス・セリエという教授が提唱したものです。
私たちの心はゴムボールのような弾力性のあるものだと思ってください。
そして、生きている以上、色々な種類の刺激にさらされていて、この心のゴムボールはその刺激の強さに応じて、ゆがんだり、つぶれたりしているとします。
この時、ゴムボールは自らの圧力によって元の形に戻ろうとしますね。
この刺激によってつぶされた形が元の形に戻ろうとする現象をストレスと言うのです。
勿論、刺激になるものは、悪いものばかりではなくて、良いものもあります。
ですから、ストレスも悪いものばかりでなく、良いものもあるのです。
そして、このストレスを生じさせた刺激のことを、ストレッサーといいます。
つまり、「試験がストレスだあ」などというのは、正確には「試験がストレッサーとなって、ストレス反応を起こしてるう!」となるわけですね。
そこで、もしもストレッサーを受けてゆがんだゴムボール状の心が、自らの力で元の形に戻れなくなったら、どうなるでしょうか。
破けてしまったり、ゴムが劣化してたりすると、つぶれた形のままになってしまいますよね。
この状態が病気だということになるのです。
ストレスによって生じる様々な病気は、こうして心が元の状態に復元されないために起きるのです。
ストレス性障害というわけです。
(図を参照)

・ストレスによる病気
ここまでは、これまでのこぶし便りでも紹介してきたことがあると思いますが、これらのストレス反応が起きると、体の中では色々な変化を起こしてきます。
例えば、癌を食べてくれる免疫細胞として知られているナチュラルキラー細胞(NK-Cell)は、ストレスが加わると活性が落ちるといわれています。
こういった危険にさらされながら、私たちは日々生活を送っているわけです。
では実際にどんな病気を起こすのでしょうか。

・身体疾患には何があるか
身体疾患としては、有名なものに「ストレス性胃炎」などがありますね。
よく緊張したり、心配事があったりすると、「胃が痛い」って言いますよね。
それです。
内視鏡検査を受けても異常が見つからないのに、みぞおちのところが痛いと感じる方は多いのではないでしょうか。
つまり、胃炎、食道炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍などの消化器疾患を起こしやすいのです。
また、脳の病気も起きますね。
くも膜下出血が有名です。
これはよく過労死だとか突然死だとかの話で出てきます。
ストレス反応が長年にわたって起きていると、次第に高血圧になっていたりするものですから、脳の血管にもその圧力が長い間負荷されていて、やがて耐え切れなくなり破裂するのです。
元々、脳の血管に奇形がある場合も少なくありません。
そして、脳梗塞もよく見られます。
命に別状がなくても麻痺などの後遺症を残すことが多いので注意が必要です。
最近では脳外科で脳ドッグを行っているところが多くなってきていますので、定期的に頭の健康診断を受けてみるのもいいでしょうね。
梗塞と言えば、心筋梗塞もストレス性疾患の代表です。
心臓自体に栄養を送っている血管が詰まってしまうのですね。
狭心症、高血圧など循環器系の病気は心の状態と深く関わっていることが多いのです。
この循環器疾患に関連して、以前、三田村先生がタイプAについて書かれていたのを覚えておられるでしょうか。
ここでは詳細は省略しますが、競争心が強く、高い評価をひたすら目指し、多くの仕事にのめりこんでしまうような方は、心臓血管系の病気を起こしやすいと言われているのです。
(詳しくはクリニック内のこぶし便りバックナンバーをご覧ください) 他にも様々な身体疾患があります。
下痢と便秘を繰り返し、腹痛が頻繁に起きる"過敏性腸症候群"や肩こり、首の後ろの張りが原因となる"筋緊張性頭痛"、常に疲れが取れなくて、体がだるいと感じてしまう"慢性疲労症候群"など、あげていくと切りがないくらいです。
また、耳鳴り、眩暈、痺れ感などの不調もストレスによる身体症状としてはよく見られます。
また、直接ストレッサーがもたらす病気ではなくても、気管支喘息や糖尿病などストレス反応によって病状が悪化する病気は枚挙に暇がありません。

・精神疾患には何があるか
では、精神疾患ではどんなものがあるでしょうか。
心因反応と診断された方も多いかと思いますが、これも言ってみればストレス性障害ですね。
心身症、心気症、自律神経失調症などなど、関連疾患はたくさんあります。
心身症は心理的な負担が体の症状となって表に出てくる病気です。
先ほどのストレス性胃炎なんかもこれに当てはまります。
従来、こういった原因不明の身体症状で苦しんでおられる方が大勢内科の病院に行かれていたものですから、内科の先生たちも困って、心療内科という特別な科を作ったのです。
ですから、心療内科というのは、本来、心の負担が体に表れた状態を診るための科で、心の病気そのものを診るのは精神科・神経科なのです。
ちなみに「こぶしクリニック」は、神経科に加えて心療内科も掲げていますので、ご心配なく。
また、心気症というのは、「自分は何か重大な病気におかされているのに違いない」と信じて疑わない病気です。
癌ノイローゼなんて言葉を聞くことがあるかもしれませんが、それも心気症の一種ですね。
自律神経失調症というのはよく聞く言葉だと思うのですが、簡単に説明しておきましょう。
私たちの体の中には私たちが普段意識しなくても快適な状態に保っていてくれるオートマチックな調整機能があるのです。
アクセルの役目を果たす交感神経とブレーキの役目を果たす副交感神経です。
この神経のバランスが崩れたときに起きるのが自律神経失調症というわけです。
暑くもないのに汗をかいたり、みんなが寒がっているのに火照ったり、そんな症状を起こします。
他に忘れてならないのは、アルコールや薬物依存があげられます。
大事な問題ですから、しっかり理解していただきたいのですが、ちょうど2年前の1999年5月号でアルコール問題を少し取り上げたことがありますので、そちらもご参照ください。
さて、次回はこの続きで、職場でのストレスについて書いてみたいと思います。

・~読者の広場~〈食のシリーズ23〉
『僕らをめぐる農の問題』ネコ吉
ここのところ雨が降らず、農作物がまいってしまいそうで、ちょっとはらはらしています。
晴天と降雨のバランスが悪いと農作物の出来に大きな差が出てきます。
関係ないや、なんて思わないで下さいね。
この事柄は直接懐にもひびいて来る問題です。
思えば、農業と僕らの距離はどんどん開いて行くみたいな気がしますね。
セーフガードが発動されました。
輸入が増えて、国内産業に重大な損害をもたらしているときに用いられる、緊急輸入制限措置のことです。
しいたけ、ネギなどが対象になりましたよね。
WTO(世界貿易機関)協定で認められた権限で、すべての産品が対象。
関税の引き上げと輸入数量制限の二つの措置があります。
国民経済上の緊急の必要性が確認され、政府が必要だと判断した場合に発動できます。
日本の発動は初めてでした。
せっかく安いのに何故値段を上げるような事をするんだ、なんて思う方がいるかもしれません。
でも、今まで収入をしいたけ等で得ていた農家が収入減少からの回復のため措置なんです。
農業を守るのに必要なんですね。
農作物の値段はどうしても外国製品が安いのが現状です。
今まで農業で生きてきた人が「収入にならないから」と言って突然農業を止めることは難しいのです。
輸入にたより過ぎて新鮮な野菜が食べられなくなったら、悲しくなるのは僕らですよね。
有機農業の表示も難しくなりました。
けっこう野菜に「有機野菜」のラベルがはられていたのですが、このごろほとんど見なくなりました。
それは「有機農業」のガイドラインの難しさにあります。
JAS法に基づき法制化され、「アナタのところは有機です。
」と認められた所しか表示は出来なくなります。
先日、畑の雑草取りをしながら(なんせ素人なので雑草がやたらと生えてしまい野菜の芽がどこにあるのか分からない畑になってます)農業は技術と科学と忍耐だなあ~。
なんて思いました。
TVの番組で稲を育ててますが、農家の方の知識量には驚かされます。
ズッキーニやじゃがいもの収穫を心待ちにしながら、雑草取りにせいを出すことにしましょう。
(ズッキーニは生でばりばり食べちゃうんですって。