2000年04月号
発行こぶし編集部
第141号
『春の嵐には、心の健康に気をつけましょう』
三田村 幌

・★4月、季節は春。
新入生は楽しい学園生活を夢見て校門をくぐり、新入社員は未来への希望に燃えて新しいスーツに袖を通す。
進級して気持ち新たに机に向かう者もいる。
惜しくも浪人した受験生も気を引き締めなおして一年間の計画を立てる。
転勤などで新たな地に生活の礎を築く者もいる。
スタートの季節。
空を見れば、やっぱり春の青い空。


★しかし今年はいささか趣きが違う。
3月に大雪、4月に入っても霙、せっかく融雪剤を撒いた農地に再び白い覆いが。
景気は回復基調といいながら、失業率は記録更新。
そう、この季節は例年だって春の鬱病の季節、特に「引越しうつ病」「栄転うつ病」「荷降ろしうつ病」なども多い。


★かく言う私もある患者さんからE-メールで「先生も引退モードですか?」とからかわれているが、一週間に札幌2回、岩見沢2回の夜間を含む診療が非常に堪える。
対外的な仕事も大半は藤田先生と大月先生にお願いしているが、気分は「荷降ろしうつ病」である。


★昨年日本でも発売されたSSRIという抗鬱剤を飲んでみたが私には嘔気と眠気で続けられなかった。
患者さんに「大丈夫、すぐ慣れますよ」と励まされたけれど、やはり薬の反応には個人差があるのだろう。
なるほどSSRIはうつ病でも、強迫神経症でも効く人には非常に喜ばれているのだが。


★ニュースを聴きながら重い気分でキーボードに原稿をこうして打ち込んでいるのだが、この重い気分にさらに輪をかけているのが、有珠山の噴火。
避難している人たちは目前に我が家を残し、いつ終息するかわからないまま非日常を強いられている。
本当に大変だろう。
雲仙普賢岳噴火、神戸大地震、そのときにもPTSD(心的外傷後ストレス障害)が注目されたけれど、あの教訓は生かされるのだろうか。


★TV画面に噴煙を浴びながら鎖につながれて逃げられないでいる犬たちが映っていた。
土石流や火砕流がきたらどうするのだろう。
つい昨日まで家族の一員として生きていたのに。
その後遅ればせながら対応があったようだが、命の尊さを人間だけのものと考えると非常に危険な気がする。


★命と言えば小渕恵三さんは大丈夫だろうか。
自民自由連立破綻後の記者インタビューを見て「大丈夫?」と思っていたら、その5時間後には緊急入院。
今のニュースでは昏睡状態で人工呼吸器をつけているという。
客観的には総理の要職を継続することは無理だろう。
何よりも命の助かることを願う。


★脳梗塞だという、出血も見られると。
やはり直前までのストレスが大きかったのだろう。
しかし一国の重要事項の指揮権を握る総理大臣の危篤状態を丸一日国民に知らせない政府というのはいったいどういうものか?

★危機管理、情報の公開、これらを非常に遅れさせるのが、最近の警察にも認められた行政の身内意識と密室性。
土壇場で知らされる国民には不安と不信が募る。
この4月からの「医療費改定」「介護保険」についても然り。
現場の私たちもこの今にもドタバタとしている。


★ところで小渕さんも何とか助かってほしいが、それでも医学的に後遺症はやむをえない。
リハビリを含む介護が必要だが、総理大臣は介護保険に入っているのだろうか?62歳というが、脳血管性障害は介護保険の対象になる。
85項目の基本調査を実施して、介護認定審査委員会で要介護判定を受けるのだろうか?ケアマネジャーによってケア・プランを立てるのだろうか?昔、国の要人は医療保険などを使わないという話を聞いたことがあるが、そうだとすると本当に国民の健康についての要望を知ることができるのだろうか?

うつ状態の今の私の頭では、どうも要領を得た文章が書けない。
こんな中でも「医療費改定」「介護保険」についてだけは少し触れておこう。

・2000年4月、診療報酬改定~医療費が変わります!
この4月から国民健康保険、政府管掌健康保険、組合健康保険の医療費が変わります。
それとともに老人保険のそれも変わりますが、一部は介護保険に組み込まれています。
これらによって患者さんの窓口負担も若干変わりますのでご了解ください。
政府の発表では今回の実質改定率は0.2%引き上げと言う事ですが、薬価基準は1.7%引き下げられています。
しかし、調剤料などは僅か引き上げられているので、皆さんの薬局での支払いは多少の変化はあっても従来と大幅に変わることはないと思われます。
さて診療所の窓口では、診療報酬1.9%引き上げという新聞報道から値上げを心配されている方も多いでしょうが、当院にあってはあまり大きな変化ではないでしょう。
初診料、再診料、通院精神療法料、処方箋料などは据え置きです。
検査料は若干下がりますが判断料は少し上がります。
外来管理加算が少し増えて、継続管理加算というのが月1回加わりますが、全体としての自己負担増は僅かと思われます。
なお、今までも一枚の処方箋に8品目を越えると私たちにペナルティが加えられていたのですが、それが7品目と変わります。
従って私たちは処方量を6品目以下に抑えなくてはならないのですが、必要だから出している薬ですのでこれは大変なことです。
この品目数の計算は面倒なので説明を略しますが、そのために剤形を錠剤から粉末や顆粒に変えることがあります。
医者からの説明もあると思いますが、中には粉末が飲めないという患者さんもおります。
そんな場合には遠慮なく申し出てください。

いずれにせよこの不景気に値上げはさらに医療を受けにくくするものです。
かつての値上げのときにも私たちはいろいろ工夫してそれを抑えてきましたが、今後もさらにその工夫を検討しています。
(例えば老人であれば今まで精神科的な医療費設定をしていたものを老人のそれに全面的にしてしまう等、検討中)しかし基本は国の政策の中で決められてくるのが医療費ですので、その点をご理解ください。

・4月から介護保険も!!
4月から「介護保険制度」も始まります。
これもドタバタで私たちも正直、混乱気味です。
当診療所に関連することのみ幾つか触れておきましょう。
介護保険の活用を希望の方は、当院では三田村か渡辺(岩見沢)に相談してください。
介護認定をされないと指定介護サービスを受けることが出来ませんが、認定の申請は直接もよりの市役所の市民福祉部高齢介護室に申し込んでも良いです。

(もし岩見沢であればTEL0126-23-4111) 要介護認定・要支援認定を受けても、「ケア・プラン」を立てないと有効に介護サービスを受けることが出来ません。
ケア・プランを作るのはケア・マネジャーに相談しましょう。
様々の老人施設にケア・マネジャーがおりますが、地域の社会資源を公平にかつ十分に把握して相談に乗ってもらうには、「居宅介護支援センター」がお勧めです。

(岩見沢であれば、「岩見沢地域ケアプラン相談センター」岩見沢市10条西3丁目TEL0126-25-3004)
ケア・プランに従って様々な介護サービスを受けることが出来ますが、主に私たちが活用をアドバイスしているものには訪問看護、訪問介護(ヘルパー)、デイケア又はデイサービス、ショートステイです。
さらに施設入所を含めて様々な介護サービスがありますが、いずれも要介護度に応じた上限を範囲として10%自己負担があります。
(ケア・プランを立てるのには自己負担がありません。
)従ってケア・プランを立ててもらう場合に、自分たちが毎月支払い得る大体の金額を提示するようにしたほうが良いでしょう。

そうしないと現実的に無理な提案を出される場合がありますので。

当院から「かかりつけ医師意見書」を書いてあげた方をはじめ必要な方には、適時往診して実際のサービス状況について相談に乗る場合があります。
この場合には「居宅療養管理指導費」として自己負担として940円を月1回に限りいただくことになりますので、ご了承ください。

当院からの訪問看護は当面「精神科訪問看護指導」という医療保険の枠内で行いますので介護保険には該当しません。

なお
当法人では、当院に通院しつつ介護保険を利用する方々が公正なケア・プランを立てることが出来るように 法人内に居宅介護支援事業所「こぶし介護相談室」を設立する準備を進めています。

正式に認可された場合には詳細をお知らせしますので、それまでは前記のセンターを活用すると良いでしょう。

・札幌こぶしクリニックに新しい先生が来ます。

4月より小樽の石橋病院さんから週に1度、水曜日に林英伸先生が来て頂くことになりました。
年齢は藤田先生よりちょっとだけ上だけれど、見た目はガッシリしていて林先生の方が若いかも・・・。
とにかくエネルギッシュ。
そのパワーをわけて頂いて、皆さんにも最近疲れが目立つ当クリニックの先生方にもきっと力になって頂けるでしょう。

これで札幌こぶしクリニックは週3回、2診体制(火・金藤田先生・三田村先生、水藤田先生・林先生)になって皆さんの待ち時間の短縮につながり、幅広い診療が受けられることと思います。 よろしくお願い致します。

・~~~読者の広場~~~
≪食のシリーズ11≫
『青いパパイヤの夢』ネコ吉 タイ・ベトナムの料理の本を買ったその夜、青いパパイヤを手にしている夢を見た。
青いパパイヤとは未熟なパパイヤのこと。
表面の皮をむいて実を千切りにしてサラダとして食べるのだ。
もちろん食べたことはない。
料理の本を見ながら「どんな味がするのだろう?」と疑問に思っていたのが、みごとに夢に出てしまったらしい。
人参でも代用が出来ると本に書いてあるので、きっと大したことは無い味だと思うのだけど、なんでも食べてみたいのである。
青いパパイヤのサラダをタイ語で「ソム・タム」と言う。
タイ、カンボジア、ラオス、ベトナム等の東南アジア広域で食べられているようで、サラダの材料としてはポピュラーな食材らしいのである。
そして札幌にある沖縄物産のお店「わしたショップ」でも青いパパイヤを売っているのを目にしていて、調べたらやっぱり沖縄でも熟れていないものは炒め物、煮物、漬け物にしたりと色々な調理法で食べられているのだった。
「青いパパイヤの香り」と言うベトナムを舞台にした映画がある。
庭に実っている青いパパイヤ(私たちが知っているパパイヤより3倍大きいような)を取ってサラダにしている様子が見ることができる。
主人公は徐々に落ちぶれていく家に住み込みで働く使用人の女の子で、彼女が健気に働く姿が美しい。
食事を運ぶ姿が何度か出てくるのだけど、一生懸命に大切そうに運ぶのだ。
ああ、食事ってこんなに大事そうに運ばれる物でしたっけ。
気軽に食べ物が手に入る時代になった昨今。
時代と共に置き去りにしてしまった「気持ち」を見たような気がした。
大事な人のために作る大事な食事。
私たちは今、ただ食べ物を口にして消化しているだけになっているような感じがする。
考えれば今でも様々な人の苦労を介して食べ物は目の前に運ばれている。
ところで青いパパイヤ、お店に売っていてもあまり買う気がしない。
旅先で道ばたで実っているのを目にしていて、映画の主人公と同じように自分で木から取って料理したいのである。
ラップにくるまって売られているパパイヤはちょっと悲しげに見える。
でも、そのうち誘惑に負けて買っていると思いますけど。

『春』春暁眠子
私がこぶしに通い始めてから4回目の春が来た。
この『春』という季節は、私にとって中々厄介だ。
4年前の春は、あやうく入院するところだった。
入院は何とか避けられたが、家から出られず、誰も信じられず、一日中部屋で丸くなっていた。
こぶしに来ては「最期の挨拶に来ました。
」なんて言って先生の寿命を縮めるような事ばかりしていた。
どうやってそんな時期を脱出したのかはもう覚えていないけれど、春、特に3月は自分の誕生日があるにも関わらず、調子が悪い事が多い。
春といえば、普通なら『希望』というイメージが強いのだろう。
でも、例えば暖かい春風なんかが吹いたりして「春だ」と思うと、私は突然泣けてしまったりする。
すごく悲しくなる。
切なくて倒れそうになってしまう。
「春になると、普段は忘れている自分の夢を思い出す。
それで、今俺は何やってんだろう?って思って悲しくなるんだよね。
」と、私の善き理解者だった人がよく言っていた。
どうやら、私の悲しさの原因も彼のそれに近いようだ。
この春、私の友人達も結婚したり、上京したり、仕事を辞めて学校に入り直したりと色々な報告が入ってくる。
その度に、友人達の幸せを祝いながら、心のどこかは置き忘れてきた夢を思い出し、動けない自分の心と体に苛立ち、悲しくなる。

それでも、悲しかろうが寂しかろうが、春という季節は巡って来る。

それならいっそ、この悲しい季節の断片はIcemanの『Edge of the Season』という一番好きな曲を歌いながら歩いてやり過ごしてやろうと思う。
そして私は、この季節の後に必ず来る『夏』に、生まれ変わってやろうと密かに思ったりする。
「今年の夏は何しようかなぁ。
」と言っては家族を驚かせたり出来るのも、この季節だけだと思うと、少しだけ気が楽になるようだ。